KPI設定とは?アジャイル開発でゴールから考える設定方法をわかりやすく解説
「プロダクトのKPIを決めてほしいと言われたが、何を選べばいいか分からない」
「KPIはあるのに、レビューで数字を報告して終わっている」
こうした悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。
KPIの選び方よりも手前に原因があることが多いです。本当に決まっていないのは、「何を成功と呼ぶか」です。
KPIは、測るために存在するものではありません。チームが進む方向を示すために存在します。
この記事では、アジャイル開発のチームがKPIを設定するときの考え方と手順、うまく機能させ続けるためのポイントを整理します。
「KPIを決めても成果につながらない」と感じている方や「これからプロダクトの指標を設計する」という方にも役立つ内容を解説します。
KPI設定とは?

KPIという言葉は知っていても、何のために置くのかがあいまいなまま決めているケースは少なくありません。
ここでは、次の2点を整理します。
- KPIは目指す状態に近づいているかを確かめるための数字のこと
- KPIはチームが進む方向を示すためにある
まずは用語の位置づけから整理し、KPIが何のために存在するのかを見ていきます。
1. KPIは目指す状態に近づいているかを確かめるための数字のこと

KPI(Key Performance Indicator)は、日本語で「重要業績評価指標」と訳されます。目指す状態に近づいているかを確かめるための数字です。
アジャイル開発では、プロダクトの価値に責任を持つプロダクトオーナー(PO)が、チームと一緒にKPIを考えることが多くあります。
POは、プロダクトの価値を最大化する責任者です。KPIを誰が決め、判断にどう使うのかを考える前提として、POの役割を理解しておくことが大切です。
2. KPIはチームが進む方向を示すためにある

「KPIはどう決めればよいですか?」という質問をよくいただきます。
しかし、多くの場合、本当に悩んでいるのはKPIそのものではありません。何を成功と考えるべきかが分からないのです。
そのため、次のような状態になりがちです。
- 他社が使っている指標を真似する
- とりあえず売上や利用者数を見る
- とりあえずアクセス数を見る
数字を置けば、KPIを決めたように見えます。ただ、その数字が良くなったときにプロダクトの何が良くなったのかを説明できなければ、チームは次にどこへ向かえばいいか分かりません。
KPIの役割は、チームが「いま何に向かって進んでいるのか」をそろえることです。
KGI・KSFとKPIはどうつながる?

KPIを調べると、KGIやKSFといった言葉も出てきます。混同しやすいので、関係を整理しておきます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標) | ゴールを数字で表したもの。「最終的にどうなっていれば成功か」を示す |
| KSF(Key Success Factor:重要成功要因) | ゴールを達成するうえで鍵になる要因。実務では「ゴールに近づくために起こしたい変化」と捉えると分かりやすい |
| KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標) | その変化が実際に起きているかを確かめる指標 |
たとえば、ゴールが「導入した会社にサービスを使い続けてもらうこと」なら、起こしたい変化として「導入直後から日常業務で使われるようになること」が考えられます。KPIは、その変化を確かめる数字として選びます。
ここで大切なのは順序です。KPIはゴールから生まれるのであって、KPIからゴールが生まれるわけではありません。
KGIやKSFという言葉を使うかどうかは、チームで決めて構いません。この記事では、分かりやすさを優先して「ゴール」「起こしたい変化」「KPI」と呼んでいきます。
KPIがうまく機能しないのはなぜ?

KPIを置いているのに成果につながらない現場には、共通するケースがあります。
ここで取り上げるのは、次の2つです。
- 測りやすいものだけを測っている
- KPIが報告資料になっている
どちらも、ゴールより先に数字を決めたときに起きやすい状態です。
1. 測りやすいものだけを測っている

アクセス数。登録者数。ページの閲覧数。タスク(チケット)の消化数。
どれも簡単に測ることはできますが、その数字が本当に顧客にとっての価値につながっているとは限りません。
測りやすい数字は、すぐに集計でき、増えていれば成果が出ているように見えます。チームの外へ説明するときにも使いやすいため、気づくとKPIの中心に置かれています。
たとえば、チケットの消化数が増えても、顧客の使い方が変わっていなければ、プロダクトの価値は上がっていません。測りやすい数字を追っているほど、チームの手ごたえと顧客の変化がずれていても気づきにくくなります。
2. KPIが報告資料になっている

KPIは存在している。しかし、誰も意思決定に使っていない。
毎回のレビューで数字は共有されるものの、「では次に何を変えるか」という話にはならない。その状態の数字は、KPIではなくレポートです。
KPIは、数字を見たあとの判断を変えるために置くものです。判断に使われていなければ、どれだけ正確に集計しても、チームの進み方は変わりません。
スプリントレビューは、動くプロダクトを関係者に触ってもらい、次に何をするかを一緒に考える場です。数字の報告で終わらせず、気づきを次のスプリントにつなげる進め方を理解しておくことが重要です。
アジャイル開発でKPIを設定する4つの手順

優れたPOは、最初にKPIを決めるのではありません。まず、どんな変化を起こしたいのかを考えています。
その考え方を、次の4つの手順に整理します。
- 「何を成功と呼ぶか」を決める
- 起こしたい変化を考える
- その変化をどう確認するかを決める
- 指標を1〜3個に絞り、チームで合意する
ここでは、中小企業向けの勤怠管理サービスを例に進めます。
1. 「何を成功と呼ぶか」を決める

最初に考えるのは、「私たちは何を成功と呼ぶのか」です。数字を選ぶのは、そのあとです。
勤怠管理サービスであれば、「導入した会社が、使い続けてくれる状態」を成功と呼ぶことができます。
売上や新規の契約数も大切ですが、それだけを成功と呼ぶと、使われないまま解約に向かう会社が増えていても、そのことに気づきにくくなります。
このゴールは、プロダクトの方向性とつながっている必要があります。チームで共有できているかは、誰に聞いても同じ答えが返ってくる状態が目安です。
スケジュール通りに完成しても、使われなければ価値にはなりません。アジャイル開発が「成功の定義」をどう変えるのかを理解しておくことが重要です。
2. 起こしたい変化を考える

次に、ゴールに近づくために、顧客や利用者にどんな変化を起こしたいかを考えます。
- 顧客を増やしたい
- 利用頻度を上げたい
- 継続率を上げたい
- 顧客満足度を高めたい
- 使い方を覚えるまでの時間を短くしたい
勤怠管理サービスの例なら、「導入した会社の従業員が、導入直後から毎日使うようになる」「初期設定で迷う時間が短くなる」といった変化が考えられます。
3. その変化をどう確認するかを決める

起こしたい変化が決まったら、その変化が起きたことをどう確認するかを考えます。確認に使う数字がKPIです。
「毎日使うようになる」を確かめるなら、「導入から1か月後に、従業員の大半が毎日打刻している会社の割合」が候補になります。
「初期設定で迷う時間が短くなる」なら、「初期設定の完了までにかかった日数」を見ることができます。
ゴールから変化、変化から指標へと分けていく流れを図にしたものを、KPIツリーと呼びます。ツリーをつくると、ある数字がどのゴールにつながっているかが見えるようになり、ゴールと関係の薄い数字に気づきやすくなります。
ゴールを先に決めるといっても、数字をあいまいにしてよいわけではありません。KPIには目指す値を置き、いつまでに確かめるかの期限も決めます。変わるのは順序だけで、数字で確かめることの大切さは変わりません。
4. 指標を1〜3個に絞り、チームで合意する

候補が出そろったら、成功を確認するために最も重要な指標を1〜3個選びます。
数が多いと、どの数字を優先して判断すればいいかが分からなくなります。これは、ほかの数字を見なくていいという意味ではありません。
状況を知るための数字は見て構いません。判断の軸に据えるKPIを、1〜3個に絞るということです。
選んだKPIは、POだけで決めずにチームで合意します。開発者が「なぜこの数字なのか」を理解していれば、日々の小さな判断でも、その数字を意識して選択肢を選べるようになります。
重要なのは、KPIの数を増やすことより、チーム全員が「この数字が良くなれば、プロダクトは良くなっている」と納得できていることです。
良いKPIに共通する4つの条件

良いKPIには、次の4つの条件があります。
- ビジョンやゴールにつながっている
- チームの行動で動かせる
- 意思決定に使われる
- シンプルである
特に重要なのは、その数字を見て何を変えるかが分かることです。
たとえば「毎日打刻している会社の割合」が下がったとき、チームは初期設定の画面を見直す、案内のメールを変える、といった次の手を考えられます。
一方、チームがどれだけ動いても変わらない数字や、見ても次の手が浮かばない数字は、KPIとして機能しにくくなります。
数字を見るだけならレポートです。行動につながるならKPIです。
KPIを機能させ続けるには?

KPIは、一度決めたら終わりではありません。使い続ける中で、チームの判断に生かしていきます。
ここで取り上げるのは、次の3つです。
- 数字を見て、次に何をつくるかを決める
- 学びに合わせてKPIを見直す
- 数字の意味を説明できないなら、ゴールの方を見直す
KPIを設定してからの運用まで、順に見ていきます。
1. 数字を見て、次に何をつくるかを決める

KPIがいちばん生きるのは、次に何をつくるかを決める場面です。
プロダクトバックログには、顧客からの要望、営業からの依頼、開発者からの改善提案など、たくさんのアイテムが並びます。「どれが一番大事か」と聞かれても、答えは「全部大事」になりがちです。
ゴールとKPIが決まっていれば、「どのアイテムが、この数字を最も動かしそうか」で比べられるようになります。比べる対象は、機能そのものより、その機能が生む価値です。その物差しになるのがKPIです。
プロダクトバックログは、すべてを管理するためではなく、次にやるべき1つを選ぶためのリストです。「ゴールにどれだけ近づけるか」を軸にした並べ方を理解しておくことが重要です。
スプリントの終わりに、動く成果物を関係者と確かめる場(スプリントレビュー)でも、KPIの変化をもとに次に何をするかを話し合えます。
2. 学びに合わせてKPIを見直す

KPIは、使いながら精度を上げていくものです。
実際に数字を追ってみると、「この数字は、思っていた変化を表していなかった」と分かることがあります。そのときは、KPIを入れ替えて構いません。
これは、KPIを気分で変えてよいという意味ではありません。いまの情報で立てた最善の仮説としてKPIを決め、分かったことに合わせて更新していくということです。
重要なのは、一度で正しいKPIを当てることより、数字と実際の変化のずれに気づき、直し続けられることです。
3. 数字の意味を説明できないなら、ゴールの方を見直す

KPIを見直すときは、次の問いをチームで考えてみてください。
- 私たちが本当に実現したい変化は何か
- いま見ている指標は、その変化を測れているか
- その数字が改善したとき、顧客やビジネスにどんな価値が生まれるか
これらの問いに答えられないなら、その数字の意味をチームで説明できていない状態です。見直すべきはKPIではなく、ゴールの方です。
ゴールが明確であれば、完璧なデータがなくても意思決定できるようになります。
KPI設定に関するよくある質問

KPI設定について、よく寄せられる疑問をFAQ形式で整理しました。
KPIとOKRの違いは何ですか?
OKR(Objectives and Key Results)は、目標と、その達成を確かめる主要な成果を組み合わせて設定する考え方です。
主要な成果は「変化が起きたかを確かめる数字」なので、KPIと近い役割を持ちます。
OKRは、挑戦的な目標を掲げて、組織やチームの向かう先をそろえることを重視しています。どちらを使う場合も、目標が先にあり、指標はそこから生まれるという順序は変わりません。
SMARTの法則はKPI設定に使えますか?
使えます。SMARTの法則は、次の5つのポイントで目標を確かめる方法で、KPIの数字の形を整えるときに役立ちます。
- 具体的か
- 測定できるか
- 達成できるか
- 目標と関連しているか
- 期限があるか
ただし、これら5つの観点を満たしていても、ゴールにつながっていなければKPIとして機能しません。
SMARTで形を整える前に、「この数字が良くなると、何が成功に近づくのか」を確かめておくことが重要です。
ベロシティやチケット消化数はKPIになりますか?
ベロシティは、チームが一定期間でどれだけの作業を完成させたかを表す数字です。チームの進み方をつかみ、見通しを立てるために役立ちます。
一方で、ベロシティやチケット消化数が上がっても、顧客の使い方が変わったかどうかは分かりません。プロダクトのKPIとしては、チームが届けた成果によって顧客にどんな変化が起きたかを確かめる数字を、別に置きます。
ベロシティは、チームが自分たちの進み具合をつかむための数字です。完了時期の見通しの立て方と、評価や比較に使ったときに起きる歪みについては、以下の記事で解説しています。
数値にしにくいゴールは、どうKPIにすればいいですか?
「使いやすいプロダクトにしたい」のように、そのままでは数字にしにくいゴールもあります。その場合は、ゴールが達成されたときに利用者の行動がどう変わるかを考えます。
使いやすくなれば、「問い合わせの件数が減る」「初めての操作を途中でやめる人が減る」といった変化が起きるはずです。完全に測れなくても、変化の兆しをとらえられる指標から始め、学びに合わせて精度を上げていけば構いません。
まとめ
KPIは、測るためではなく、チームが進む方向を示すために存在します。だからこそ、ゴールが先にあり、KPIはそこから生まれます。
重要なのは、数字を正確に集めることよりも、その数字を見て何を変えるかがチームで分かっていることです。
最初から完璧なKPIをつくる必要はありません。まずは「私たちは何を成功と呼ぶのか?」をチームで考え、その成功を確認するために最も重要な指標を1〜3個選んでみてください。
実際に話し始めると、ゴールとKPI、そしてプロダクトバックログの優先順位をどうつなげるかで、判断に迷う場面が出てきます。
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