インセプションデッキとは?アジャイル開発での作成方法や具体例を解説

近年、開発手法として主流になりつつあるアジャイルには、重要な工程が多く存在します。その中の一つとして挙げられるものが「インセプションデッキ」です。これは、プロジェクトに携わる関係者全員が共通認識を持つために有効です。

この記事では、インセプションデッキの概要や構成要素、作成方法について解説します。

目次

インセプションデッキとは

インセプションデッキについて説明する前に、まずは簡単にアジャイル開発について確認します。
アジャイルとは、従来の開発手法であるウォーターフォールの弱点に対する解決策として生み出されたプロジェクト管理手法です。アジャイルは、プロジェクトを分割し、小さい単位で開発とテストを繰り返しながらプロジェクトを進めます。そのため、フィードバックを取り入れながら、柔軟に対応することが可能です。
アジャイルとウォーターフォールの違いも合わせてご確認ください。

そして、アジャイルを進める上で重要な一つは、チームがプロジェクトビジョンの共通認識を持つことです。このビジョンを作成するのにインセプションデッキが役に立ちます。

プロジェクトの開始段階では通常、各メンバーや関係者のゴールや、成功の定義は異なっています。インセプション デッキを作成することで、さまざまなアイデアや仮定が明確になります。これにより、ゴールや、対象者(ペルソナ)、および何を開発する必要があるかについて、共通の視点が持てるようになります。

つまりインセプションデッキは、プロジェクトの全体像を理解し、プロジェクトに携わる関係者全員が「プロジェクトビジョン」や「ビジネスゴール」の共通認識を持って取り組むために作成します。

アジャイル開発においてインセプションデッキを作成するメリット

インセプションデッキを作成し、チーム共通の「プロジェクトビジョン」や「ビジネスゴール」を持つことによって、どのようなメリットがあるでしょうか?

まずチームは、潜在的なユーザーは誰で、どこに向かって進んでいくべきかを理解することができます。そのため、何を構築する必要があるのか、不要なものは何か、作業の優先順位をつけたり、作業を取捨選択することができます。

またインセプションデッキを作成する事で、チームとプロジェクトに携わるステークホルダーのゴールを一致させることができます。共通のプロダクトビジョンを持ち、相互理解を深めることが成功の鍵となることがよくあります。

アジャイル開発におけるインセプションデッキの作成方法

インセプションデッキは、10の質問に回答するだけで作成できます。
プロジェクトに関わるメンバー全員が参加することが推奨されます。

質問は下記の10項目です。

インセプションデッキ10の質問
  • 我われはなぜここにいるのか
  • エレベーターピッチ
  • パッケージデザイン
  • やらないことリスト
  • ご近所さんを探せ
  • 解決案を描く
  • 夜も眠れない問題
  • 期間を見極める
  • トレードオフスライダー(優先順位)
  • 何がどれだけ必要なのか

詳しく見ていきましょう。

【具体例】インセプションデッキを構成する10の質問の意図を理解する

質問1:我われはなぜここにいるのか?

私たちがここにいる理由、顧客は誰か、なぜこのプロジェクトを行うことにしたのかを簡単に思い出してください。

  • 対象となる顧客は誰か?
  • プロジェクト発足の理由は?
  • なぜこのプロジェクトが必要なのか?

質問2:エレベーターピッチ

通常 60 秒以内(エレベーターに乗るまでの時間)で、それについて何も知らない人に、「何を、なぜ、どのように」を、的確で簡単に説明することです。

以下の[]内を埋めれば、簡単にエレベーターピッチが作成できます。

[ 対象顧客 ]向けの、
[ プロダクト名 ]は、
[ プロダクトカテゴリー ]です。
これは[ 主なメリット、購入する説得力のある理由 ]、
[ 主要な競合サービス ]とは異なり、
[ 差別化できる特徴 ]が備わっています。
※[]内を埋めればにエレベーターピッチの完成です。

質問3:パッケージデザイン

パッケージデザインだけでなく、プロダクトの完成イメージや、ロゴ、キャラクター、広告やPRの見せ方などを描いてみてください。
言葉で伝えるイメージよりも、目で見るイメージの方が、ずっと簡単に認識を合わせることができます。

質問4:やらないことリスト

チームは、スコープ(作業範囲)に関する質問に行き詰まることがよくあります。スコープに関する質問を減らす方法は、スコープ外について合意することです。
チームとステークホルダーの間では、このスコープ外について異なる考えを持っていることはよくあるので、事前に合意しておくことは大切です。
つまり、このプロジェクトで「やること」「やらないこと」をはっきりとさせる為に考えます。

質問5:ご近所さんを探せ

ご近所さんとは「プロジェクトに関わる人物」を指しています。
実際のチームメンバーはもちろん、何かあった時に頼れる外部の人材や、顧客の担当者などこのプロジェクトに関わる全ての人をピックアップしておきます。

質問6:解決策を描く

プロジェクトを遂行するにあたり、どのようなアプローチが最も適しているのか技術的なことについて話し合います。チームの理解が進むに連れて、技術的なアプローチは最初の考えと変わる可能性があります。しかし事前に技術ついて話し合うことは、今後の進行に役立ちます。

質問7:夜も眠れない問題

ここで重要なことは、依存関係やリスクの可能性を洗い出すことです。そしてその影響を最小限に抑えるための解決策についても考えます。
トラブルが発生した場合に、どのような対策がとれるのか事前に準備しておくことは、その後の業務進行に役に立ちます。

質問8:期間を見極める

そのプロジェクトは、どのくらいの大きさですか?チームがこれまでに行った他の作業と比較して、これがどの程度の労力であるかを判断するための会話です。
これは確約した納期ではなく、ざっくりどのくらいの作業量なのかイメージを持つためのものです。

質問9:トレードオフスライダー

すべてのプロジェクトには、スコープ、お金、時間、品質などの制約があります。このプロジェクトにとって、最も重要なことと重要でないことは何でしょうか?

スコープ:全機能の搭載
予算:予算内に収める
納期:期日までに納品する
品質:バグを出さず、高品質である

プロジェクト開始前に、重要な要素と、どれくらいのレベルで重要かを決めておくことで、問題が起きた際の指標になります。

質問10:何がどれだけ必要なのか

予算はどれくらいですか?期間はどのくらいかかりますか?チームには誰が必要ですか?
ここでは、コスト、期間、スキル(人数)がどれだけ必要なのかを確認します。

アジャイルの見積もりについては、下記の記事も参考にしてください。

インセプションデッキをアジャイル開発のプロジェクトで活かすアドバイス

正直、私はインセプションデッキを使っていません。

日本のクラスでは時々インセプションデッキについて聞かれることもあり、アメリカやヨーロッパより、日本での方が人気な印象を持っています。ただし「インセプションデッキ」と呼ばないだけで、ほとんどの活動は行なっています!

特に、チームが共通の「プロジェクトビジョン」や「ビジネスゴール」を持つことが大切です。これは、チームメンバーのやる気や、心理的安全性に繋がります。

顧客や、上司の指示にただ従って作業するだけでは、”やらされている”という気持ちになってしまいがちです。
自分自身がビジョンやゴールの策定に関わり、それを理解していることで、”なぜこの作業をしなければならないのか”、”自分の作業にどんな価値があるのか”というのがわかるようになります。これは満足度を高めますし、能動的に考えるきっかけにもなり得ます。

まずは、ビジョンを作ることから始めてみることをお勧めします。その他の質問も重要ですが、これらは作業の進行中に変わる可能性があります。そのため、あまり時間をかけすぎずに、柔軟に対応しながら進めましょう!

インセプションデッキのひな形(テンプレート)

参考
『アジャイルサムライ』にて
インセプションデッキのテンプレート (日本語版)を確認できます。

まとめ

インセプションデッキのメリットと、作り方を説明しました。全ての10の質問に答える必要はありませんし、アレンジしてもても大丈夫です。しかし、これらは強力なチームを構築するために役立ちます。

すでに進行中の業務であっても興味のある部分から、ゲーム感覚で取り入れてみてください!

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